数値を超えた精度でつくる、桑山のCNC製造
INDEX
1. 自動加工の先にある「桑山品質」が生み出す美しさの条件
2. 企画・製造・営業、三位一体の開発フロー
3. 多様なリングを、安定した品質で届けるために
4. 数値の精度を実現する、ミクロの判断
5. 量産と表現のあいだで、最適解を探す
6. 一つひとつの約束を、取り違えないために
7. 判断軸を次の世代へ
8. まだ見たことのない輝きへの挑戦
9. 見えない仕事が、信頼をつくる
自動加工の先にある「桑山品質」が生み出す美しさの条件
CNCとは「Computer Numerical Control」の略で、コンピュータで数値制御する事を指します。あらかじめ用意したプログラムにしたがって、金属や樹脂を自動で切削・加工する仕組みで、自動車部品や電子機器など、さまざまな産業のものづくりを支えています。CNC加工は「一度条件を決めて、あとは機械が同じものを正確に作り続けてくれるもの」です。
しかし桑山のCNC製造は、そのイメージとは少し違います。桑山が向き合っているのは、ブライダルリングをはじめとしたジュエリーの世界。求められるのは、数値としての精度だけではなく、指に通した瞬間の心地よさや、光が当たったときの繊細な輝き、ブランドごとの世界観まで含めた表情など図面どおりの寸法を出すだけではかたちにすることができないものです。
桑山では、「企画品質・製品品質・営業品質」の三つを総称して「桑山品質」と定義しています。企画段階で描かれたデザインを、カットリングでどう実現するかを考える開発。数値と感覚の両方から狙いの形を削り出す製造。そしてブランドやエンドユーザーの声を受け取り、要望を正確に現場へ届ける営業。この三者が密に連携することで、はじめて一本のリングがかたちになります。
一見すると「機械が自動でやってくれる」ように見えるCNCの現場で、実は最も問われているのは人の判断力と経験です。ラフスケッチやCADデータを見た瞬間に「ここは削れない」「この寸法は強度が持たない」と見抜く目。十分の一ミリ、時には百分の一ミリ単位で寸法を攻めながら、仕上げていく感覚。その背景にあるのが、桑山の企業理念「心と夢を、輝きでむすぶ」です。CNCで削り出しているのは単なる金属ではなく、誰かの人生の節目を彩る約束のリングの土台です。外からは見えない精度・感覚・技術を積み重ねることで、ブランドの信頼を支え、エンドユーザーの心と夢をそっと支える。その静かな誇りこそが、一般的なCNC加工とは一味違う、桑山のCNC製造の本質だと言えます。
企画・製造・営業、三位一体の開発フロー
桑山のCNC製造は、多くの場合OEM案件からスタートします。お客様から届くのは、ラフスケッチのこともあれば、イラストレーターで描き込まれた図面のこともあります。まず担当の営業がその情報を受け取り、開発部へ共有。デザイン画を見て「この角度では成立しない」「ここはキャストに切り替えた方がよい」といった制作可否をおおよそ判断します。
桑山では、ラフ画で来たデザインも一度イラストレーターやCADに起こし、寸法や角度を数値として整理し直します。これは、後のCNCプログラムを組むためだけではなく、営業やデザイナーと「この角度はこれくらい」などと共通の言語で会話するためでもあります。正面図と側面図の描き方が矛盾している場合は、「実際に作るとこう見えます」と3Dモデルでイメージを共有し、企画段階からズレを修正していきます。ここでの対話が「企画品質」の要であり、後戻りの少ない開発フローを支えています。
難易度の高い案件では、一つのデザインに一年近い調整期間をかけることもあるほどです。その裏には、「営業品質」と「製品品質」を両立させるために、お客様と開発・製造が三者で着地点を探り続ける粘り強い対話があります。こうして磨かれていく一連のプロセス自体が、「桑山品質」を象徴する文化だと言えます。

多様なリングを、安定した品質で届けるために
富山工場のCNCラインには、旋盤、デザインカット機、マシニングセンタ、内面カット機など、用途の異なる複数の設備が並びます。一人が2〜3台の機械を掛け持ちし、段取り替え・工具交換・プログラム呼び出し・寸法チェックを行いながら、複数の製品を同時並行で進めていきます。
品質確認は、入り口・中間・最終の少なくとも三段階で行われます。旋盤ではリングの幅や厚みを狙い寸法の公差内に収めつつ、内径はサイズ棒による確認だけに頼らず、画像寸法測定器で数値としても管理し、サイズ誤差を極力抑えています。これは、毎日身につけるブライダルリングからこそ、細かなサイズへのこだわりに応えるためです。
こうした工程設計と体制の根底にあるのは、「ただ作れるだけでは桑山品質とは呼べない」という意識です。限られた人員と設備で、多様なブランド・多様なデザインに対応しながらも、常に安定したクオリティを保つ。そのための工夫が、現場のあらゆる段取りに息づいています。
数値の精度を実現する、ミクロの判断
CNCと聞くと、「数値で完全に管理されたもの」というイメージを持つ方も多いかもしれませんが、実際の現場では、数値だけでは語りきれないミクロの判断がいたるところで行われています。その一つが、リング内側のカーブの位置合わせです。指なじみを良くするために、桑山のリング内側にはやわらかなカーブがつけられていますが、その中心が幅のど真ん中から少しでもずれると、装着感や後工程の研磨に影響が出てしまいます。数値上は同じでも、そのわずかなズレを感じ取り、再セッティングするのはオペレーターの腕の見せどころです。
工具の摩耗や表面粗さの変化も、重要な判断ポイントです。同じ条件で削っていても、本数を重ねると刃先の状態により目に見えないレベルで表面が変わってきます。現場ではルーペで削り面を確認し、「まだ許容できるスジか」「このままでは研磨しても線が残るか」を見極め、工具交換のタイミングを決めます。一見すると違いが分からないような表面でも、最終的に鏡面仕上げをしたときに浮かび上がる微細なスジまで想像しながら判断しているのです。
国内外のブランドやアイテムによって求められるレベルも変わります。国内ではブライダルを中心に非常に細かなチェックが求められ、ファッションリングでは許容されるスジも厳しく判断されることがあります。一方で海外ブランドでも、角度誤差や鏡面のわずかな乱れまで確認するなど、いずれも細部への期待は非常に高いものがあります。こうした要求品質の幅に対応するために、開発・仕上げ・CNCの間で数値基準を共有しつつ、案件ごとに求められる最終水準を適切に調整していくことが必要です。そこでは、数値化だけでは評価しきれない微細な質感や見え方を見極める職人の感性と誠実さが力を発揮します。図面どおりに削るだけではなく、「このリングが誰かの人生の節目に寄り添う」という想像力を持って加工に向き合う。その姿勢こそが、「心と夢を、輝きでむすぶ」桑山の職人技の源泉と言えます。

量産と表現のあいだで、最適解を探す
CNC旋盤でリングのベース形状を削り出した後、表情を決定づけるのがデザインカットです。CADデータをもとに、まずは旋盤用のプログラムを組み、リング幅・外径・内径といった基本寸法を設定します。桑山のプログラムは、これらの数値を変更することでサイズ展開にも対応できるよう工夫されていますが、デザインカットになると話は複雑です。
シンプルなラインカットであれば、サイズが変わっても分割数や比率を調整するだけで対応できる場合があります。しかし、外周と側面のカット位置が交差するデザインはサイズごとにカットの入り方や位置関係が微妙に変化します。そのため、一部のデザインでは、サイズごとに個別のプログラムを用意し、3Dモデル上で加工ラインを描き込みながら展開していきます。サンプルサイズを揃えるだけでも数週間から一ヶ月、全サイズ展開となれば数ヶ月を要するケースもあります。
意欲的なデザインはサンプルとしては非常に魅力的である一方、量産時の成功率が高くないものでもあります。「量産できるデザイン」と「職人しか作れない一点物」の境界線を見極めることも、桑山の大事な役割です。どこまでなら安定生産が可能か、どの条件ならブランドの要求に応えられるかを開発・製造・営業で話し合い、最適な着地点を探していきます。

一つひとつの約束を、取り違えないために
多品種・少量のブライダルリング製造において、品質を守る土台となっているのが情報管理です。桑山では、一つの製品ごとに「カットリング仕様書」を作成し、リング幅や厚み、面取りの大きさ、デザインカットのパターンなど、CNC加工に関わる仕様を細かく明文化しています。作業者はこの仕様書を見ることで、「この製品がどうあるべきか」を瞬時に理解できるようになっています。
一方で、刻印や裏石の種類・位置、エンドユーザーごとのイニシャルやメッセージといった個別のオーダー情報は、「製品生産指示書」として別途管理されます。裏石が二石入る場合には、「どちらの石がどの位置に入るのか」まで指示書に記載され、それを見ながら各工程が作業を進めます。こうした二重の管理によって、「製品としての仕様」と「一つひとつのオーダー情報」を取り違えない仕組みがつくられているのです。
ブライダルでは、指のサイズへのこだわりや、季節や体調によるサイズ変化など、非常に繊細な要望が寄せられます。それでも「ここまでやるのか」と感じるような要求に対して、理解と誇りを持って応えていく。その積み重ねこそが、「心と夢を、輝きでむすぶ」リングを生み出し、ブランドの信頼を支える「桑山品質」につながっています。

判断軸を次の世代へ
CNC加工の現場で求められるスキルは、マニュアルや図面だけでは身につきません。素材ごとの特徴や機械の個体差、工具摩耗の進み方や音・振動の違いなど、そうした要素を身体で覚え、数値と感覚の両方から「良し悪し」を判断できるようになるまでには、数年単位の経験が必要です。それでも全ての機械やデザインカットを完全に網羅することは容易ではありません。それほどまでに、CNCの世界は奥が深いものです。
桑山では、ベテランが若手のそばにつき、セッティングの意図や音の違い、ルーペ越しの表面の見え方などを、できるだけ言葉にしながら伝えることを大切にしています。「なぜこの条件を選んだのか」「どこまでを許容範囲とするのか」といった基準の背景にある判断根拠を共有することで、チームとしての判断軸をそろえていきます。同時に、旋盤とデザインカットなど異なるポジションを少しずつ経験させ、将来的には複数工程をまたいで活躍できる人材を育てていくことも課題として取り組んでいます。
人づくりは、目先の生産力を補うためだけのものではありません。「企画品質・製品品質・営業品質」を支えるのは、最終的には“人”です。どれだけ設備が進化しても、図面の裏側にあるブランドの想いを汲み取り、「このデザインならこう提案してはどうか」と一歩踏み込んだ提案ができるのも、人間ならではの役割だと考えています。
まだ見たことのない輝きへの挑戦
桑山のCNC製造は、「決まった形を正確に作る」だけにとどまりません。香港フェアで話題を呼んだ金箔インレイリングのように、異素材を組み合わせた新しい表現にも果敢に挑戦しています。繊細な金箔をリングの溝に収め、その周囲をCNCで削り込みながら、伝統工芸のような繊細さと工業製品としての安定性を両立させる。そんな試みは、一見すると無謀にも思えるほど難易度の高いチャレンジです。
一つの製品に対して何度もつかみ替えをし、少しずつ形を作っていきます。製品によっては十回近くつかみ替えが必要になることもあり、寸法管理と位置合わせの難しさは想像を超えます。それでもあえて挑戦するのは、「他社にはない表現」を生み出し、ハイブランドの求める「桑山だからこそできる」を実現するためです。
こうした新技術の開発によって「お客様がまだ見たことのない輝き」を提案し続けること自体が、桑山の存在意義でもあると私たちは考えています。常に新しい表現に挑戦し続ける姿勢は、国内市場を牽引する桑山の役割でもあると同時に、ジュエリーの可能性をより広げることだとも考えています。

見えない仕事が、信頼をつくる
桑山のCNC製造は、「精度×感性×誠実さ」の結晶です。企画段階で描かれたデザインを、製造が数値と工程に落とし込み、営業がブランドやエンドユーザーへとつなげていく。その全てのプロセスにおいて、「企画品質・製品品質・営業品質」を高い次元で満たすことを目指しています。CNCラインで削り出されるのは、単なる金属のリングではなく、ブランドから託された約束であり、エンドユーザーの心と夢を預かる器です。
その裏側では、ラフスケッチから始まる試行錯誤や、数十本に一回の工具交換、わずかな表面のスジに気づくまなざし、ブランドとの対話を重ねながらの仕様調整など、数え切れないほどの“見えない仕事”が積み重なっています。納期のプレッシャーと戦いながらも、一本一本のリングに誠実に向き合い、「これなら自分たちの家族にも勧められる」と胸を張れる品質を追い続ける。その姿勢こそが、「桑山品質」の正体です。
見えない部分まで美しく。図面に現れないこだわりを、数値と感性でかたちにする。桑山のCNC製造は、これからも「心と夢を、輝きでむすぶ」ものづくりの一端を担いながら、ブランドとエンドユーザーの信頼を支え続けていきます。